鼠径ヘルニアとは
鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)とは、一般の方には「脱腸」とも呼ばれている病気です。米国では専門の外科医がいるほど一般的な病気で、鼠径ヘルニアで受診する人が年間80万人もいるといわれています。日本でも年間約14万人が手術治療を受けていますが、多忙のため我慢してしまっていたり、恥ずかしい病気といったイメージが根強いことから、受診に二の足を踏んでいるというと考えられおり、潜在的な患者さまもかなり多いと推定されています。
そけい(鼠径)は太ももの付け根の部分のことで、ヘルニアは身体の組織が正しい位置からはみ出した状態を意味しています。多くの場合、本来ならばお腹の中にあるはずの腹膜や腸の一部が、鼠径部の筋膜の間から皮膚の下に出てきてしまう病気です。
特に40代以上の男性に多く起こる傾向があります。乳幼児に起こることもあり、その場合はほとんど先天的な原因によるものですが、成人の場合は加齢により身体の組織が弱くなることが主な原因です。乳幼児でも中高年でも鼠径ヘルニア患者の8割以上を占めているのは男性ですが、これには鼠径管のサイズなどが関連していると考えられています。女性は男性より小さく、比較的腸が脱出しにくいとされているのです。
また、40代以上では鼠径ヘルニアの発生に職業による影響が大きく関係していると指摘されており、傾向として腹圧のかかりがちな製造業や立ち仕事に従事する人に多く見られます。そのほかにも便秘症や肥満、前立腺肥大などを患っている方、咳をよくする人や妊婦さんも注意が必要です。
そけいヘルニア手術には保険が適用されていますので、保険適用後の手術費用は3割負担の場合6万円から、13万円程度までとなります。収入によっても金額は違ってきます。
鼠径ヘルニアの症状
鼠径ヘルニアは症状が悪化してしまうと、脱肛している部位の血流が途絶えるという事態にもつながります。この状態は急いで手術をしなければ、命にかかわることもある重篤な状態です。症状が初期の頃の症状としては、立った時やお腹に力を入れた時に、鼠径部の皮膚の下に腹膜や腸の一部などが露出してきて、柔らかい腫れができてくることが挙げられますが、この段階では指で押さえると引っ込んでいくのが普通です。
脱腸と呼ばれるのは、場合によりお腹の中から腸が脱出してくることからで、太ももの付け根(そけい部)に何か出てくる感じがあります。また、症状が進行するに従って、小腸などの臓器が出てくるので不快感や痛みも伴ってきます。腫れが急に硬くなったり、押さえても引っ込まなくなるような症状も出てきて、お腹が痛くなったり吐いたりすることもあります。
これをヘルニアのカントンといい、脱肛している部位の血流が止まってしまうことになるのです。
鼠径ヘルニアの種類
外そけいヘルニア
そけい部(鼠径部)は男性では睾丸へ行く血管や精管(精子を運ぶ管)が、女性では子宮を支える靱帯が通っている部位で、そけい管というお腹と外をつなぐ筒状の管があります。齢の影響から筋膜が衰えてくると、お腹に力を入れたことなどがきっかけとなって、筋膜が緩み生じた入り口の隙間から腹膜が出てくるようになります。それが次第に袋のような形状になって伸びていくと、そけい管内を通り脱出します。
ヘルニア嚢(のう)と呼ばれるこの袋はいったんできると自然にはなくならず、お腹に力を入れるとヘルニア嚢の中に腸など、お腹の中の組織が出てくるようになるのが外そけいヘルニアです。
内そけいヘルニア
内そけいヘルニアは、加齢によって筋力が衰えてくるのが原因で起こります。押し上げるようにして腹膜が袋状に伸びて、途中からそけい管内に脱出してしまいます。
大腿そけいヘルニア
大腿ヘルニア(だいたいヘルニア)はそけい部の下、大腿部(だいたい部)の筋肉、筋膜のはたらきが衰えたことが原因となって膨張が発生するヘルニアです。
鼠径ヘルニアの手術
そけいヘルニアは手術のみが根治的な治療方法ですが、術後の安静も必要なく、緊張や痛みが少ないため、日常生活にすぐに復帰できる日帰り手術可能となっています。
そけいヘルニアが薬や注射で治癒することはありません。また、手術が行えない事情がある場合に、ヘルニアバンドが用いられませすが、あくまでもヘルニアの脱出を押さえるために使用されるもので、ヘルニアバンドによって治ることもありません。そけいヘルニアを根治させるために、手術では周囲の組織からヘルニア嚢(のう)を分離し、飛び出したヘルニアをお腹の中に戻してその出口となっているヘルニア門を塞ぐ必要があります。
ヘルニア門を塞ぐ際に、従来は筋肉や筋膜を縫い合わせて行われていましたが、最近はヘルニア門の閉鎖に人工素材(メッシュ)が使われるのが一般的です。